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日本の森を守る 見山謙一郎のコラム

第34回 地方銀行の可能性~第30回情報交換会でお話したこと

2月23日に本会の第30回情報交換会で「地方銀行の可能性」というテーマでお話をさせていただきました。本会に発足時から関わらせていただく者として感じることは、地方経済や地方銀行を取り巻く環境はこれまでになく厳しい状況にあるということです。その一方で、総務省や環境省等の委員をつとめる中で感じることは、地方銀行に対する期待感は「政策連携」という形で、これまでになく高まっている、ということも事実です。こうしたネガティブな要因とポジティブな要因が混在する中、ネガティブな要因の前に立ちすくむのではなく、ポジティブな要因から地方経済や地方銀行の可能性の芽を伸ばしていく一助になれればと思い、お話をさせていただきました。

情報発信における地方の真の課題とは

都市住民である私自身が感じる地方の資源や価値は、豊かな自然環境と恵みの食文化、地域に根づく伝統工芸や産業、歴史的・文化的な遺産、そしてそこに住まう人の営みだと思います。こうした地方の資源に未知なる可能性や魅力を感じているのは私だけではなく、外国人観光客や私の周りにいる学生も同じです。実際に、昨年12月に学生を連れて地方の観光調査に訪れた際は、皆、初めて訪れるその地域の虜になっていました。このような機会がなければ、その地域を知ることはなかったと思いますが、ひとたび「縁」をつくることが出来れば、その地域に対する愛着が涌き、再び訪れたいという動機にも繋がっていきます。かつては、情報発信の伝送路は限られており、地方から世界に情報を発信することは容易なことではありませんでした。しかし今は、FacebookやInstagram、Twitter、YouTubeなどを使えば、気軽に世界へと情報発信ができる時代です。情報発信の敷居が低くなり、情報が溢れる時代になったからこそ、自然美や非日常性、そして人の心を燻るようなノスタルジックなものへの憧れが高まっているのだと思います。国内外の若者と話をしていても、日本の地方の魅力は、世界に通用する価値だと確信しています。地方の情報発信の課題は、SNS等のツールや技術を使いこなせないから、と考えられることもありますが、実はそうではなく、灯台下暗しで、地方・地域に存在する固有の魅力を発見、発掘し尽せておらず、優良な素材を生かし切れていないことが、真の課題だと思います。

地方発のFinTechの可能性とは

また、当日はFinTechについても、「リバース・イノベーション」の視点からお話をさせていただきました。イノベーションと言えば、先進国で生まれ、社会に実装された後、途上国に普及していくイメージが一般的です。リバース・イノベーションとは、それとは逆の流れで、途上国で生まれ、採用されたイノベーションが、先進国へと「逆流」していくのが特徴です。FinTechと言えば、シリコンバレーなど先進国から生まれることをイメージしがちですが、ケニアやバングラデシュなどの途上国では、モバイルファイナンスサービスという携帯通信を介した金融サービスが驚異的なスピードで普及しています。ケニアで2007年にサービスを開始したM-PESA(エム‐ペサ)は、今やケニア国民の70%が利用するまでに急成長し、バングラデシュで2011年にサービスを開始したbKash(ビーキャッシュ)も今年1月の月間取引額が日本円換算で3,870億円という規模にまで成長しています。こうした地域では、もともと銀行口座を保有する人口が少なく、はじめて受ける金融サービスがモバイルファイナンスサービスであるという人々が大多数を占めます。かつて固定電話を経ずに携帯電話へと移行したように、銀行口座の開設を経ずして、途上国ではモバイルファイナンスが急速に普及しているのです。使う機能はショートメッセージサービス(SMS)で、その為、スマートフォンではない、単機能の携帯電話でも対応が可能です。もし、金融サービスが行き届く先進国で、途上国向けの金融サービスを検討したなら、こうしたサービスアイデアは出て来なかったと思います。事実、バングラデシュでは、bKashのサービスの検討を進める際、銀行や携帯電話会社から人材を登用せず、専門性のバイアスを排除したことが成功の要因になったと言われています。高齢者の多い地方部では、最先端のテクノロジーを駆使した金融サービスよりも、途上国のモバイルファイナンスサービスの方が、受け入れられる可能性はあるのではないか、そんな仮説を持って考えてみることから、地方発のFinTechの可能性に触れられるような気がします。

イノベーションは課題や余白から生まれる

「自然以外に何もない」という地方の課題が、実は本質的な魅力であったり、「銀行のサービスにアクセス出来ない」という途上国の課題が、モバイルファイナンスサービスという途上国発のFinTechを生み出したように、課題は見方を変えれば可能性へと変換することが出来ます。行政が地方銀行との連携で期待しているのは、資金力以前の「課題察知能力」であり、「地域における情報ネットワーク」です。性急に解を求めるのではなく、まずは課題を地域の中で共有し合い、議論することが求められているのです。長く政策に関与していると、「いい政策とは、余白のある政策」ではないか、と感じます。社会課題に対する取り組みは、唯一無二の解があるわけではなく、様々な取り組みを試行錯誤する中から解に近づけると考えています。「余白」があることで柔軟性が生まれ、現場で様々な試行錯誤が出来ることから多様性のあるアイデアが生まれるのです。

情報交換会の後、参加行が現在の取り組み状況を紹介する分科会にも参加させていただきましたが、環境金融の商品づくりにまでは至っていない、という報告を多くの銀行がされていました。一方で、公益信託で環境基金を設定する取り組みは複数の銀行が行っていました。公益信託のように、金融商品においても、「大枠で仕組みをつくってしまう」という余白のあるアプローチはありだと思います。例えば、「環境ファンド」や「環境融資」という商品を作り、現場対応型で様々なアイデアを採用していく、そんな金融商品があっても良いのではと感じました。新しいアイデアやイノベーションは課題や余白から生まれるのです。

以 上

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