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日本の森を守る 見山謙一郎のコラム

第30回 林業の「入口」と「出口」を繋ぐ~高知県での新たな取り組みの胎動

ここ最近、行政の新たな政策や、企業の新規事業に対するアドバイスを求められる機会が増えています。いずれのケースも、課題は明らかで、方法論もある程度まで構築されているものの、社会に実装され、広く普及していくイメージがなかなか掴めずにいるという「出口戦略」の相談です。出口戦略を考える上で、欠かすことが出来ないのは、連携や共創ですが、それ以前に大切にすべきことは、新たな取り組みを行なわなければならない社会背景や、そこに至るまでの歴史を出来るだけ深く理解することだと思います。こうした“History”という「入口」を深く理解することで、はじめて未来への“Story”という「出口」を描くことが出来るのだと思います。

林業における課題は、森林の荒廃や担い手不足など色々とあげられます。企業がCSRとして取り組む植林、間伐も、確かに大切なことかも知れませんが、林業を持続可能な「生業」にするためには、人を育てるという「入口」と、有形無形の森林資源の利活用という「出口」が相互に繋がることが求められます。

林業の「入口」(人材の育成)

本コラムでも何度か紹介している、自伐型林業を推進している中嶋健造さんは、長期的視野に基づく施業と環境保全、そして木材資源のみならず、観光や森林セラピーなどの森林資源の利活用を通じた採算性の向上を目指す林業家の育成、支援を行なっています。高知県の佐川町では2013年から町の取り組みとして自伐型林業を推進し、これまで20人以上の林業家を町に生み出してきました。また、それ以外の地域でも、500人以上の林業家や林業を志す人たちの指導を行うことで、林業の担い手を増やすという、林業の「入口」を築きつつあります。しかしながら、林業家が育てた森林資源をどう活用していくのか、そして自伐型林業を一般の人たちに広く認知してもらうための商品開発など、「出口」づくりには、まだまだ課題が多いことも事実です。

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写真-1:林業家の育成(作業道研修)

林業の「出口」をつくる

カンブリア宮殿やNHKのプロフェッショナルでも紹介された高知県在住のデザイナー梅原真さんは、一次産業や地方に拘った活動をされています。高知県は県の84%が森林であり、それ以外の16%で行われる工業品の出荷額は、全国最下位です。梅原さんは、こうした状況に向き合い、森林以外の16%よりも84%の森林に目を向けるべく「はちよん84プロジェクト」を立ち上げました。当プロジェクトのHPに「はちよん84プロジェクトは、高知のクライ森を「はちよ~ん」と呼んでアッカルクするPROJECT」とあるように、マイナスなイメージをプラスへと転換する、林業の「出口」づくりのプロジェクトと言えます。

このような梅原さんの「マイナスにマイナスを掛け合わせる」というリバースシンキング的発想は、林業や地方をデザインする上で、とても参考になります。通常であれば、マイナス要素には、何かプラスになるものを掛け合わせて、マイナスを打ち消そうとしがちです。しかし、梅原さんは、「(数学と同じように)マイナスにマイナスを掛け合わせるとプラスになるが、マイナスにプラスを掛け合わせるとマイナスになる」という発想で、これまで多くの成功事例を生み出してきました。

例えば、バブル真っ只中の29年前にスタートした高知県の大方町の建物を持たない砂浜美術館では、「砂浜にあるすべてのものが作品」というコンセプトのもと、砂浜を無数のTシャツで埋め尽くす「Tシャツアート展」を毎年開催しています。このプロジェクトは、「あの砂浜はなにもなくて悲しい」と地元の人たちが嘆いているマイナスの状態に、「展示が終わったら何も残らない」というマイナスを掛け合わせる発想から生まれたものです。

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写真-2:砂浜美術館

また、「漁師が釣って、漁師が焼いた」というキャッチコピーで、後に20億円の産業に成長した漁業プロジェクトも、「効率の悪い鰹の一本釣り」のマイナスに、「取り扱いが面倒な藁(わら)焼き」のマイナスを掛け合わせ、プラスを導き出した事例の一つです。「入口」がマイナスであっても、マイナスを掛け合わせることで、「出口」ではしっかりプラスに転換させるというのが、梅原さんのデザイナーとしての真骨頂と言えます。

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写真-3:「土佐一本釣り・藁焼きたたき」のパッケージ

林業の「入口」と「出口」を繋ぐ胎動

とかくマイナスのイメージが強い林業の世界で、中嶋さんは、林業従事者を増やし、支援することで、担い手不足という林業の「入口」を変革しようとしています。また、梅原さんは、工業品出荷額が全国最下位という高知県のマイナスを逆手にとって、敢えて森林にフォーカスした84プロジェクトを推進し、森林資源の商品化という「出口」づくりを進めています。今、この二人が連携し、新たな取り組みを始めようとしています。9月9日に高知県で「ジバツって何?!」会議という共同フォーラムを開催し、今後、商品開発を含めた連携を進めていく予定です。林業の長年の課題であった新たな担い手の育成(入口)を専門にする中嶋さんと、森林資源の利活用(出口)を得意とする梅原さんという、高知県出身の二人が繋がることで、高知県発の林業のイノベーションが起こることに期待せずにはいられません。

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写真-4:「ジバツって何?!」会議パンフレット

以 上

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