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日本の森を守る 見山謙一郎のコラム

第21回 メープルストーリー
~一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社の取り組みからの考察(その2)

今回も前回に続き、一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社の取り組みを紹介したいと思います。

森林保全と聞くと、「植林」、「間伐」や木材資源を品質によって多段階利用する「木材のカスケード利用」などのキーワードがあげられますが、今、秩父で行なわれている取り組みは、「樹液」を使った取り組みです。

秩父では、10年ほど前から自生しているカエデの木から樹液を採取する取り組みが行われており、カエデの樹液や樹液を煮詰めてつくるメープルシロップなどを使った様々な商品が生み出されています。メープルシロップと言えば、本場カナダを思い浮かべると思いますが、秩父地域には日本に自生する28種類のカエデの内21種類が自生しており、実は「地域固有の資源を生かした取り組み」と言えます。

秩父市出身の井原愛子さんは、大学卒業後、外資系企業に入社しました。全世界共通のマニュアルがあり、組織という枠組みの中、チームワークで働けることは、とても楽しかったそうです。しかし、次第に組織という枠組みでは物足りなくなったと感じていた頃、たまたま見ていたテレビを通じて、秩父のメープルの活動を知りました。それまでは、特に秩父に対して強い愛着を意識したことはなかったそうですが、メープルの活動を「もっと知りたい」と思い、秩父のNPOが主催するカエデの森の探索ツアーに参加しました。当時から、様々なメープル関連商品は開発・販売されていたものの、秩父ならではの特色ある取り組みの全体像について、「事業という視点」から地域外に積極的に発信し、トータルコーディネーター的な役割を担うような人はいませんでした。こうした現状を知った時、「その役割を自分自身が担いたい」と決意したそうです。井原さんが漠然と感じていたことは、「商品(モノ)だけでは、メープルにまつわるストーリー(物語)は語り尽くせない」ということでした。

その後、井原さんが取った行動は、会社を退職し、メープルの本場カナダに行くことでした。秩父で第一歩を踏み出したのと同じように、カナダでも森のツアーに参加したのですが、何よりも感動したことは、その場で樹液を採取し、メープルシロップ製造機械「エヴァポレーター(蒸発機)」で実際に樹液を煮詰めてメープルシロップをつくる工程を体験したことです。更には、その場で出来たメープルシロップを使った食体験まで堪能することが出来ました。この「体験」こそが、秩父の取り組みで漠然と感じた「メープルストーリーを語る上で足りなかったもの」だったのです。ここから、井原さんは、メープルシロップの本場カナダの森にあるシュガーハウス(メープルシロップを製造する工場や小屋を意味する)を秩父につくることを目指すことになりました。ちょうど、秩父観光土産品協同組合や樹液生産協同組合、前回紹介した秩父地域おもてなし観光公社などが、メープルシロップの戦略構想を練ろうと考えていた時期とも重なったこともあり、秩父市が総務省交付金の採択を得るなどの支援を行ない、秩父ミューズパークスポーツの森内にある市の遊休施設「旧パー3ゴルフコース センターハウス」を再利用する形で、2016年4月27日に日本発のシュガーハウス「MAPLE BASE(メープルベース)」が、オープンしました。本場カナダから輸入されたメープルシロップ製造機械「エヴァポレーター」もMAPLE BASE内に設置されています。

イメージ写真1

写真:MAPLE BASE外観

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写真:MAPLE BASE内のエヴァポレーター(蒸発機)

イメージ写真3

出典:秩父地域おもてなし観光公社資料

MAPLE BASEでは、カフェでメープルを使った食が堪能出来る他、メープルシロップができるまでの工程を紹介するとともに、「スギ・ヒノキ(人工林)の間伐 → カエデの植林 → カエデ(天然林)からの樹液採取 → 商品化 → 秩父のメープルを食べる・買う → そして、樹液で得た収入で森林の手入れを行う」という“メープルストーリー”の循環型の取り組みを紹介することで、秩父の森に関心を持ってもらう情報発信基地としての役割を担っています。

イメージ写真4

出典:MAPLE BASE

「モノ」と「体験」を組み合わせることから生まれたメープルストーリーは、1人のUターンの若者が、更に多くの若者を巻き込むことで活動が活性化し、地域におけるセクター間連携のみならず世代間連携をも生み出しているのです。

井原さんに今後の活動について伺ったところ、MAPLE BASEをより樹液採取地に近い場所につくることと、「薬木」についても興味を持って調べていきたいとのことでした。森林には、若者の好奇心を惹きつけるものがまだまだ存在しているのです。

以 上

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